ねずみの初恋:殺し屋の少女が初めて知る愛の鼓動

裏社会で生きる少女と、どこにでもいる普通の青年が出会ったとき、残酷でいて、どこか温かい物語が幕を開けます。大瀬戸陸氏によるマンガ作品『ねずみの初恋』は、アクション、ロマンス、そしてサスペンスが絶妙に絡み合った、他に類を見ない魅力を放つ作品です。
その人気は高く、「このマンガがすごい! 2025」オトコ編で第9位にランクインしたのをはじめ、「ガチ! マンガフェア2024」青年漫画部門で第2位、「次にくるマンガ大賞2024」コミックス部門で第12位を獲得するなど、各方面から高い評価を得ています 。これらの受賞歴からもわかるように、連載開始から間もないにもかかわらず、多くの読者の心を掴み、漫画界で注目を集めている作品と言えるでしょう。
あらすじ:残酷で切ない、初めての恋
物語の中心にいるのは、主人公であるねずみという少女。彼女は幼い頃からヤクザ組織に拾われ、人を殺すことだけを教えられて育ちました。愛を知らず、感情を表に出すことも少なかった彼女の日常は、普通の青年・碧(あお)との出会いによって大きく変わります 。
何の予備知識もないまま、ねずみに惹かれていく碧。彼の純粋な優しさに触れるうちに、ねずみの中に今まで感じたことのない感情が芽生え、二人はやがて恋に落ち、同棲生活を始めることになります 。しかし、束の間の幸せな時間は長くは続きません。ねずみの過去を知るヤクザ組織は、二人の関係を認めず、碧を組織から引き離し、抹殺しようと画策します 。
愛する碧を救うため、ねずみは組織に対し、自らの命をかけた「ある交換条件」を突きつけるのです 。この究極の選択が、二人の運命を大きく狂わせていくことになります。物語全体を通して、「交換条件」というキーワードが繰り返し登場することからも、この出来事が物語の核心であり、二人の関係に大きな影響を与える重要な要素であることがうかがえます。それは、ねずみが初めて知った愛を守るために、どれほどの代償を払う覚悟があるのかを示す象徴的な出来事と言えるでしょう。
登場人物:愛と忠誠が交錯するアンダーワールド
ねずみ:心を閉ざした殺し屋の、初めての感情
ねずみは、幼い頃からヤクザ組織によって冷酷な殺し屋として育てられました。ナイフを使った動脈切断や、蹴りによる頸椎粉砕といった高度な戦闘技術を身につけており、その実力は一般人を容易に殺害できるほどです 。
過去には、組織のトップであるイルカの父親から性的虐待を受けていた可能性も示唆されており 、彼女の生い立ちには深い闇が潜んでいます。そんな感情を知らずに生きてきたねずみですが、碧との出会いをきっかけに、人間らしい感情を取り戻し始めます 。
碧を愛し、彼を守ることは、彼女にとって何よりも重要な目標となり、そのためにはどんな危険も厭わない強い意志を持つようになります 。特筆すべきは、彼女の可愛らしい外見と、プロの殺し屋としての冷酷さのギャップです 。この二面性こそが、ねずみというキャラクターの最大の魅力と言えるでしょう。
碧(あお):純粋な愛がもたらす変化
碧は、どこにでもいるような普通の青年です 。ねずみの過去や彼女が置かれている状況を知ってもなお、彼女を一途に愛し続ける純粋な心を持っています 。運動神経はあまり高くないとされていますが 、ねずみへの愛情は誰にも負けません。彼の存在は、感情を知らなかったねずみの心を धीरे धीरे と開いていく上で、非常に重要な役割を果たします。物語が進むにつれて、彼はねずみを守るために、自らも殺し屋としての道を歩むことを決意するなど、大きな変化を見せることになります 。当初は暴力とは無縁だった彼が、愛する人のために過酷な現実に立ち向かっていく姿は、読者の心を強く揺さぶります。
その他の登場人物
- 鯆(いるか): ねずみを拾い、育て上げたヤクザ組織のボス 。ねずみに対して強い執着心を持ち、彼女を組織にとって都合の良い「道具」として扱おうとします 。二人の関係を阻む大きな壁となる存在です
- テング: 鯆の側近として働く謎の多い人物 。ねずみに殺し屋としての技術を教えた張本人であり、その戦闘能力はねずみを遥かに凌ぐと言われています 。口元を隠した特徴的な外見も印象的です。
「ねずみの初恋」の世界観:無垢と残酷のコントラスト

『ねずみの初恋』の舞台は、現代社会の裏側に存在するヤクザ組織の暗部です 。一見すると普通の生活を送っているように見える人々のすぐそばで、暴力と危険が常に渦巻いています。この作品の大きな特徴は、ねずみと碧の純粋でひたむきな恋愛と、彼女を取り巻く残酷な現実とのギャップです 。穏やかな日常を描いたかと思えば、次の瞬間には目を覆いたくなるような暴力的な描写が繰り広げられるなど、読者の感情を激しく揺さぶります。また、可愛らしいキャラクターデザインも、この残酷な世界観とのコントラストを際立たせる要素の一つと言えるでしょう 。
テーマと考察:極限状態における愛の形
この作品は、「初恋」という普遍的なテーマを、極限状態の中で描いています 。暴力とトラウマを抱えて生きてきたねずみが、初めて知る愛という感情。それは、彼女にとって希望の光であると同時に、これまで生きてきた世界との矛盾を生み出すものでもあります 。
また、二人が求める「普通の生活」は、彼女たちの置かれた状況を考えると非常に困難な道のりです 。それでも、お互いを想い、支え合おうとする二人の姿は、愛の強さ、そして人が生きる上で本当に大切なものは何かを読者に問いかけます。特に、ねずみが愛する人のために自らを犠牲にしようとする「交換条件」は、彼女の深い愛情と覚悟を示す象徴的な出来事であり、物語の重要なテーマを体現しています 。
まとめ:心を掴んで離さない、残酷で美しい初恋の物語
『ねずみの初恋』は、激しいアクションと、胸を締め付けるような切ないロマンスが織りなす、唯一無二の魅力を備えた作品です。残酷な運命に翻弄されながらも、初めて知った愛のために懸命に生きようとするねずみと碧の姿は、読者の心を強く惹きつけます。可愛らしい絵柄でありながら、容赦のない暴力描写も含まれるため、読む人を選ぶかもしれませんが、そのギャップこそがこの作品の大きな魅力と言えるでしょう。現在も「週刊ヤングマガジン」にて連載中で 、単行本も第5巻まで発売されています(2025年3月6日時点) 。また、2025年第4四半期には、Kodansha USAから英語版の刊行も予定されています 。ぜひこの機会に、『ねずみの初恋』の世界に足を踏み入れてみてはいかがでしょうか。
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