序論:戦後80年の静寂と、スクリーンに蘇る「3.5頭身」の兵士たち
2025年12月5日、太平洋戦争の終結から80年という月日が流れた冬の日本において、ある一本のアニメーション映画が公開された。タイトルは『ペリリュー ─楽園のゲルニカ─』。劇場のスクリーンに映し出されたのは、南洋の強烈な陽光、透き通るようなサンゴ礁の海、そしてそこを歩く、どこか懐かしさを感じさせる丸みを帯びたかわいらしいキャラクターたちであった1。
しかし、観客はその愛らしいビジュアルが、開始数分で裏切られることを知ることになる。彼らが手にしているのは銃であり、彼らが掘っているのは塹壕であり、そして彼らが直面しているのは、物理的な暴力によって身体が破壊される「死」そのものであったからだ。
30代以上の漫画・アニメファンにとって、この作品が突きつける衝撃は特別な意味を持つ。日常の激務や人間関係に疲弊し、休日にふと手にした漫画や映画に癒やしを求める人々にとって、『ペリリュー』は単なる「戦争もの」の枠を超えた、魂の深淵に触れるヒューマンドラマとして迫ってくる。なぜなら、ここで描かれるのは、組織の論理に翻弄され、理不尽な命令に縛られながらも、個人の尊厳を保とうとあがく「人間」の姿そのものだからである。
本レポートでは、原作コミック全11巻および外伝、そして2025年公開の映画版2の情報を包括的に分析し、本作がなぜ今、この時代に読まれ、観られるべきなのかを徹底的に解明する。武田一義が描いた「功績係」田丸の視点を通じ、私たちは「楽園」と「地獄」が同居するペリリュー島の真実を目撃することになる。
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2025年、なぜ今『ペリリュー』が読まれるの
戦後80年という「節目」の持つ意味
2025年は、第二次世界大戦の終結から80年という、歴史的な節目にあたる年である1。戦争体験者の多くが鬼籍に入り、「生の声」を聞く機会が極めて稀になった現代において、戦争の記憶をいかに継承するかという課題は、年々その切実さを増している。
かつて、戦争漫画といえば、劇画調のタッチで描かれる勇ましい戦記物や、あるいは極めて政治的なメッセージ色の強い作品が主流であった。しかし、現代の読者、特に30代以上の層は、イデオロギーや過剰な演出よりも、より「フラット」で「個人的」な物語を求めている傾向がある。そこに登場したのが『ペリリュー ─楽園のゲルニカ─』であった。
本作が2025年の今、熱烈に支持される理由は、それが「声高な反戦プロパガンダ」ではない点にある。作者の武田一義は、日本漫画家協会賞の選評において、「体験していないからこそ持つ客観性」を評価されている3。体験者のリアリティとは異なる、後世の人間が資料と想像力を駆使して構築した「客観的なリアリティ」こそが、現代人の感性にフィットしているのである。
シンエイ動画によるアニメ化・映画化の衝撃
本作のアニメ化・映画化を担ったのは、『ドラえもん』や『クレヨンしんちゃん』という国民的ファミリーアニメを長年手掛けてきた「シンエイ動画」である1。この事実は、本作の持つ特殊性を象徴している。
通常、戦争映画といえば、リアルなミリタリー描写を得意とするスタジオが制作することが多い。しかし、あえてファミリー向け作品の雄であるシンエイ動画が制作したことで、原作が持つ「かわいらしい絵柄」と「残酷な内容」のギャップが、映像としてより鮮烈に表現されることとなった。
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制作・スタッフ |
担当者 |
役割と特徴 |
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制作スタジオ |
シンエイ動画 × 冨嶽 |
ファミリー向けアニメの温かみある表現技術と、重厚なテーマの融合。 |
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コンセプトボード |
益城貴昌・竹田悠介 (Bamboo) |
『ソードアート・オンライン』等の背景美術で知られるBambooが、南洋の楽園の美しさと戦場の荒廃を描き出す4。 |
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美術監督 |
岩谷邦子・加藤浩・坂上裕文 |
自然の鮮やかな色彩と、爆撃で焦土と化したグレーの世界の対比を強調。 |
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音楽 |
川井憲次 |
『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊』等で知られる巨匠が、感情を揺さぶる荘厳なスコアを提供。 |
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考証 |
鈴木貴昭 |
『ガールズ&パンツァー』等で知られる軍事考証家が、兵器や戦術のリアリティを担保。 |
特に注目すべきは、美術監督やコンセプトボードの布陣である。彼らが作り出したのは、息を呑むほど美しい「楽園」の風景である。青い空、白い雲、エメラルドグリーンの海。その美しさが際立てば際立つほど、そこで繰り広げられる殺戮の無意味さと悲惨さが浮き彫りになる。この「映像美」と「暴力」のコントラストこそが、2025年の観客を惹きつける大きな要因となっている。
スマートフォン時代の「読書体験」の変化
本作の人気を支えるもう一つの柱は、マンガParkやdブックといった電子書籍・漫画アプリの存在である6。
休日、ソファに寝転がりながらスマートフォンで漫画を読む。そんなリラックスした時間に、ふと目に入った「かわいい絵柄」のサムネイル。軽い気持ちで読み始めた読者は、スクロールする指を止められなくなる。
「無料キャンペーン」や「全話無料」といった施策8は、普段重いテーマの作品を敬遠しがちな層への入り口として機能した。アプリのコメント欄には、「かわいい絵だから油断していたら、涙が止まらなくなった」「これはただの漫画じゃない」といった感想が溢れている。手軽なデバイスで重厚な物語を消費するという、現代特有の読書スタイルが、本作の普及を後押ししたのである。
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「功績係」田丸が見た地獄と楽園の真実
漫画家志望の兵士・田丸と「功績係」という任務
物語の主人公・田丸一等兵は、決して英雄ではない。射撃が下手で、動きも鈍く、軍人としての適性は皆無に等しい。彼が唯一持っていた才能は、絵を描くことだった9。
そんな彼に与えられた任務は、「功績係」である。
功績係(こうせきかかり)とは何か
この聞き慣れない役職は、戦場における「記録係」兼「代筆屋」である。
主な任務は以下の通りである。
- 戦死者の記録: 誰が、いつ、どこで、どのように死んだかを記録する。
- 功績の捏造と美化: 遺族に送るための「功績」を書き記す。たとえその死が、飢えや病気、あるいは無謀な命令による無意味な死であったとしても、遺族には「勇敢に戦い、敵に多大な損害を与えて散った」と伝えなければならない。
- 手紙の代筆: 字が書けない、あるいは書く時間がない兵士に代わり、家族への手紙を書く。
田丸はこの任務を通じて、戦場の「真実」と、銃後(故郷)に伝えられる「虚構」とのギャップに苦悩することになる。彼はスケッチブックに、仲間たちの「勇姿」を描く一方で、その裏にある「惨めな死」や「やりきれない思い」をも目撃し続ける。
この「観察者」としての田丸の立ち位置は、読者の視点と重なる。最前線にいながら、どこか一歩引いた視点で戦場を見つめる田丸の目は、カメラのレンズのように冷静でありながら、同時に画家の目として情感豊かである。彼が描くスケッチは、写真以上に雄弁に、兵士たちの生きた証を語りかける。
戦略的価値を失った島での「持久戦」という絶望
物語の舞台となるペリリュー島は、パラオ諸島の南端に位置する小さな島である。昭和19年(1944年)当時、東洋一と謳われた飛行場を有していたこの島は、絶対国防圏の要衝とされていた9。
しかし、戦況は無情である。米軍の戦略変更により、フィリピンへの進攻ルートが優先され、ペリリュー島の戦略的価値は事実上消滅した。島を奪取しても、そこから日本本土を爆撃することはできない。いわば「捨て石」となったのである。
それでも、大本営から守備隊に下された命令は冷酷であった。
「徹底持久」。
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日本軍 |
米軍 |
戦力差と状況 |
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兵力 |
約10,000人 |
約40,000人(第1海兵師団ほか) |
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補給 |
完全に途絶(海上封鎖) |
圧倒的な物資と艦砲射撃・空爆支援 |
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戦略 |
洞窟陣地を利用したゲリラ戦・持久戦 |
圧倒的火力による掃討・制圧 |
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目的 |
一日でも長く米軍を釘付けにする |
飛行場の早期奪取と無力化 |
「玉砕(全滅)してはならない」。
かつてのアッツ島やサイパン島のような「バンザイ突撃」による早期決着は禁じられた。兵士たちは、昼は洞窟の奥深くに潜み、夜になると這い出して米兵を襲撃する。水も食料も尽き、弾薬も底をつく中で、ただ「死ぬこと」すら許されず、「生き延びて戦い続ける」ことを強いられたのである9。
この「終わりの見えない持久戦」の描写は、現代社会における過酷な労働環境や、出口の見えないプロジェクトに縛られる30代以上の社会人にとって、ある種の既視感を伴う恐怖として映る。補給もなく、上層部からの支援もなく、ただ現場の精神力だけで耐え忍ぶことを強要される構造。田丸たちが直面した絶望は、形を変えて現代にも存在しているのだ。
11回の御嘉賞と届かない救援
守備隊の奮闘に対し、昭和天皇からは異例となる11回もの「御嘉賞(ごかしょう)」(お褒めの言葉)が与えられた9。
しかし、言葉だけで腹は膨れない。弾丸は増えない。
兵士たちが本当に待ち望んでいたのは、お褒めの言葉ではなく、自分たちを救い出してくれる連合艦隊の姿であった。
物語の中で、田丸たちは「必ず艦隊が来る」「反攻作戦が始まる」という噂にすがりつく。しかし、現実は残酷だ。島外からの情報は遮断され、あるいは都合の良いように解釈され、彼らは敗戦の事実すら知らぬまま、昭和20年8月15日を過ぎても戦い続けることになる9。
この「情報の断絶」が生む悲劇もまた、本作の重要なテーマである。正しい情報を知らされないまま、組織の論理に従って命を燃やし尽くす若者たち。その姿は、現代の情報化社会において、フェイクニュースや偏った情報に踊らされる私たちの危うさをも示唆しているように思える。
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絵柄のギャップが描く「楽園のゲルニカ」
「かわいい」からこそ「痛い」
『ペリリュー』の最大の特徴であり、最大の武器は、その絵柄にある。
藤子・F・不二雄や手塚治虫を彷彿とさせる、丸みを帯びた3頭身のキャラクターたち。背景の自然描写も、まるで絵本のように美しい。
しかし、そのかわいらしいキャラクターの身体が、爆撃によって弾け飛び、銃弾によって損壊する。
断面からは骨が覗き、内臓が溢れ出る。
この「視覚的なギャップ」がもたらす心理的効果は計り知れない。
- 脱・リアリズムによる普遍化:
もし本作が、劇画調のリアルな絵柄で描かれていたらどうだろうか。おそらく、「グロテスクで怖い」「自分とは関係のない過去の話」として、多くの読者がページを閉じてしまったかもしれない。
記号化された「かわいい」キャラクターであるからこそ、読者は彼らを「特定の誰か」ではなく「自分たちの隣人」、あるいは「自分自身」として捉えることができる。キャラクターの抽象度が高い分、そこに感情移入する余地が広がるのである。 - 不条理の強調:
無垢で愛らしい存在が、理不尽に破壊される様は、戦争という行為の「不自然さ」「異常さ」を際立たせる。ピカソの『ゲルニカ』が、写実的な描写ではなく抽象的な表現によって戦争の悲鳴を描いたように、武田一義の「かわいい絵」は、戦争の狂気をより純粋な形で抽出することに成功している。 - 読者の防衛本能の解除:
30代以上の読者、特に休日にリラックスしたいと考えている層にとって、過度にリアルな戦場描写はストレスとなる。しかし、『ペリリュー』の絵柄は、その心理的なハードルを下げてくれる。「これなら読めるかもしれない」と思わせる導入としての機能。そして、読み進めるうちに、その絵柄だからこそ伝わる切なさや痛みに、逃げ場を失っていくのである。
美術監督たちが作り上げた「楽園」の色彩
アニメ映画版において、美術監督の岩谷邦子、加藤浩、坂上裕文らは、ペリリュー島の「光」と「影」を徹底的に追求した4。
- 楽園の色彩:
パラオの海のエメラルドグリーン、ジャングルの深い緑、ハイビスカスの赤。これらは、生命力に満ち溢れ、見る者の心を癒やす。 - ゲルニカの色彩:
一方で、米軍の火炎放射器によって焼き払われた黒い森、石灰岩が剥き出しになった白い大地、そして酸化した血のどす黒い赤。
この色彩の対比は、劇中で田丸が感じる「世界への違和感」を視覚化したものである。「こんなに美しい場所で、なぜ自分たちは殺し合いをしているのか」。その問いかけが、美しい背景美術を通して観客の視覚に直接訴えかけられる。
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極限状態における人間ドラマとキャラクターたち
田丸と吉敷 ─ 魂のバディ
物語の軸となるのは、田丸と、その親友・吉敷(よしき)の関係である。
吉敷は、臆病な田丸とは対照的に、実直で勇敢、そして誰よりも優しい心を持つ兵士である。
- 田丸: 記録する者。観察する者。生き残ることに執着しながらも、罪悪感に苛まれる。
- 吉敷: 行動する者。支える者。田丸の弱さを受け入れ、彼を守ろうとする。
二人の友情は、BL(ボーイズラブ)的な消費をされることもあるが、それ以上に、極限状態における人間の「連帯」の象徴として描かれている。地獄のような洞窟の中で、わずかな食料を分け合い、くだらない冗談を言い合う時間だけが、彼らを人間に繋ぎ止めていた。
特に外伝においては、本編では描かれなかった吉敷の単独行動時のエピソードや、戦後の彼の実家の様子が描かれ、二人の運命の残酷な対比が涙を誘う9。吉敷の実家を訪れた田丸が、吉敷の家族と共に農作業を手伝うシーンは、失われた日常と、二度と戻らない友への鎮魂歌のように静かで美しい。
島田少尉と小杉伍長 ─ 指揮官たちの苦悩
兵士たちを率いる指揮官たちの描写もまた、ステレオタイプな「悪徳将校」や「熱血漢」とは一線を画している。
- 島田少尉:
合理的で冷静な指揮官。精神論が支配する日本軍の中にあって、少しでも部下の生存率を高めようと腐心する。彼の苦悩は、中間管理職の悲哀にも通じる。上層部からの理不尽な命令と、現場の兵士たちの命との板挟みになりながら、それでも「指揮官」としての責務を全うしようとする姿は、多くの社会人読者の共感を呼ぶ。 - 小杉伍長:
叩き上げの職業軍人。サバイバル能力に長け、田丸に「生き残るための技術」を叩き込む。粗暴に見えて、実は誰よりも部下思いであり、田丸の「描く」という行為の意味を誰よりも早く理解した人物の一人でもある。
彼らもまた、戦争という巨大なシステムの一部でありながら、必死に「個」としての良心や美学を貫こうとした。その姿が、読者の胸を打つ。
外伝が補完する「敵」と「戦後」
全11巻の本編に加え、全4巻の『ペリリュー ─外伝─』が存在することは、本作の世界観を語る上で欠かせない要素である8。
- アメリカ兵の視点:
本編では「圧倒的な暴力装置」として描かれていた米兵も、外伝では「恐怖に怯える若者」として描かれる。彼らにも故郷があり、待っている家族がいる。戦争が「善対悪」ではなく、「人間対人間」の殺し合いであることを、敵側の視点を挿入することで公平に描き出している。 - 戦後の苦しみ:
戦争は、1945年8月15日に終わったわけではない。生き残った田丸たちが帰国した後に直面した「戦後」の苦しみもまた、本作の重要なテーマである。
自分だけが生き残ってしまったという罪悪感(サバイバーズ・ギルト)。
戦友の遺族に「立派な最期でした」と嘘をつき続ける苦しみ。
変わってしまった日本の風景への戸惑い。
外伝では、こうした「終わらない戦争」が丹念に描かれる。
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第11巻、そして未来へ ─ 継承される記憶

最終巻が描く「1945年8月15日以降」
物語のクライマックスは、日本が降伏したことを知らずに抵抗を続ける田丸たちの姿である11。
米軍の投降呼びかけに応じるべきか、罠ではないか。葛藤の末に彼らが選んだのは、「生きて帰る」ことへの執着であった。
最終巻である第11巻では、彼らが投降し、捕虜となり、そして日本へ帰還するまでの過程が描かれる。そこで彼らが見たのは、焦土と化した祖国と、それでも力強く復興へ向かう人々の姿であった。
現代への接続 ─ 孫の視点
物語のエピローグは、現代(2017年)へと飛躍する。
田丸の孫が、漫画編集者として働きながら、祖父の足跡を辿ってペリリュー島を訪れる13。
この「孫の視点」の導入は、物語を過去のものとして完結させず、現代の私たちへと接続するための重要なブリッジとなっている。
祖父が遺したスケッチブック。そこに描かれた若き日の祖父や戦友たちの笑顔。
孫は、その絵を通じて、祖父が体験した「地獄」と、その中で見出したわずかな「光」を知る。
読者はこの孫の視点と同化し、自分自身の家族の歴史、ひいては日本の歴史に思いを馳せることになる。「自分のおじいちゃんも、こんな風に戦っていたのかもしれない」。そんな想像力が、戦争を「自分事」として捉え直すきっかけを与えるのである。
聖地巡礼 ─ 現代のペリリュー島へ
観光地としてのパラオと戦跡
作品に心を動かされたファンの間では、実際にパラオ・ペリリュー島を訪れる「聖地巡礼」が静かなブームとなっている。
日本から直行便でおよそ4時間半。時差もほとんどないこの南の島国は、世界有数のダイビングスポットとして知られるが、同時に島全体が巨大な「戦争博物館」でもある14。
オレンジビーチ(Orange Beach)
米軍の上陸地点となった海岸。かつては米軍のコードネームで呼ばれ、日本軍の猛射によって海が血で赤く染まったことから「オレンジビーチ」の名が定着したとも言われる(実際には上陸計画上のコードネームだが、その惨劇のイメージと重なり語られることが多い)。
現在は、白い砂浜と青い海が広がる美しいビーチであり、平和の尊さを肌で感じることができる場所である。
千人洞窟(千人壕)
日本軍が掘削し、野戦病院として使用していた巨大な地下壕。
内部には、当時のビール瓶や薬瓶、錆びついた武器などが、まるで時間が止まったかのように残されている15。ガイドの案内で暗闇の中を進むと、当時の兵士たちの息遣いや、うめき声が聞こえてくるような錯覚に陥る。
戦跡ツアーとガイドの存在
現地では、日本人ガイドによる戦跡ツアーが実施されている。例えば、ベテランガイドの平野氏などは、詳細な戦史知識に基づき、当時の状況を分かりやすく解説してくれる14。
「ここで田丸たちが隠れていたのか」「ここを吉敷が走ったのか」。
漫画で見た光景が、現実の風景と重なり合う瞬間、読者は言葉にできない衝撃を受ける。ボートでの移動中に浴びる水しぶきの冷たささえも、かつて兵士たちが感じた感覚の一部として記憶に刻まれる。
安河内哲也氏のブログ16にあるように、「15歳以上、できれば18歳以上であればしっかり歴史を学ぶきっかけになる」場所であり、パラオの空気を自分の肌で感じることは、何百冊の歴史書を読むのにも勝る体験となるだろう。
結論:楽園に残された「問い」を受け継ぐために
なぜ今、『ペリリュー ─楽園のゲルニカ─』が読まれるのか。
それは、この作品が「戦争」を描きながらも、その中心にある「人間」の普遍的な弱さと強さを肯定しているからである。
30代以上の私たちは、日々社会という戦場で戦っている。理不尽な命令、組織の論理、逃げ場のないプレッシャー。田丸たちが置かれた極限状況は、形を変えて私たちの日常にも存在している。だからこそ、臆病でありながらも「描くこと」で自分を保ち続けた田丸の姿に、私たちは救いを見出すのだ。
2025年、映画化という新たな命を吹き込まれた本作は、より多くの人々に届くことだろう。
かわいいキャラクターたちが織りなす、あまりにも悲しく、あまりにも美しい物語。
それは、戦後80年を迎えた日本社会に向けた、武田一義という「現代の功績係」からの手紙である。
休日の午後、リラックスした気分で手に取ったその漫画(あるいは映画)が、あなたの人生観を揺さぶるかもしれない。しかし、その揺らぎこそが、平和な時代を生きる私たちが忘れてはならない「痛み」の感覚なのだ。
まだこの作品に触れていない方は、ぜひページを開いてほしい。
そこには、教科書には載っていない、しかし確かにそこに存在した「真実」が描かれている。
そして、読み終えた後、きっと誰かに伝えたくなるはずだ。
「この島で、彼らは生きていたんだ」と。
付録:作品データと関連情報
書籍情報
- タイトル: ペリリュー ─楽園のゲルニカ─
- 著者: 武田一義
- 原案協力: 平塚柾緒(太平洋戦争研究会)
- 巻数: 全11巻(完結)+外伝全4巻8
- 出版社: 白泉社(ヤングアニマルコミックス)
- 受賞歴: 第46回日本漫画家協会賞優秀賞(2017年)17
- 配信: マンガPark、dブック、コミックシーモア他で配信中6。
映画情報
- タイトル: 映画『ペリリュー -楽園のゲルニカ-』
- 公開日: 2025年12月5日(金)1
- 配給: 東映
- 制作: シンエイ動画×冨嶽
- 主題歌: (劇伴担当:川井憲次)
- 公式サイト: peleliu-movie.jp 1
ペリリュー島の戦い 関連データ比較
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項目 |
日本軍 |
米軍 |
備考 |
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投入兵力 |
約10,500名 |
約48,740名 |
米軍は第1海兵師団が主力 |
|
戦死者数 |
約10,022名 |
約1,794名 |
米軍の死傷者総数は約10,000名に達し、米軍史上最高の損害率の一つとなった |
|
生還者数 |
34名(組織的戦闘終了後) |
– |
終戦後まで潜伏し生き残った人数1 |
|
戦闘期間 |
1944年9月15日 – 11月27日 |
– |
組織的戦闘終了まで約2ヶ月半。その後も散発的な戦闘は終戦まで続いた |
主な登場人物相関図
|
キャラクター |
役割 |
性格・特徴 |
田丸との関係 |
|
田丸 一等兵 |
主人公・功績係 |
漫画家志望。臆病だが観察眼がある。 |
本人 |
|
吉敷 上等兵 |
親友 |
実直で勇敢。誰にでも優しい。 |
精神的な支柱 |
|
島田 少尉 |
指揮官 |
冷静沈着。合理的思考の持ち主。 |
上官として田丸の能力を利用・保護 |
|
小杉 伍長 |
ベテラン兵 |
サバイバルの達人。 |
生きる術を教える師匠的存在 |
引用文献
- 『ペリリュー -楽園のゲルニカ-』本日12月5日(金)公開! | シンエイ動画, https://shin-ei-animation.jp/2025/12/news_251205_2/
- 『ペリリュー -楽園のゲルニカ-』「メカニック&軍事考証ナイト」公式レポ | アニメイトタイムズ, https://www.animatetimes.com/news/details.php?id=1766630292
- 『ペリリュー 楽園のゲルニカ』原作者・武田一義氏、映画化の際「兵器が人体を破壊するさまをきちんと描いてほしい」と要望|第38回東京国際映画祭 – Tokyo International Film Festival, https://2025.tiff-jp.net/news/ja/?p=67518
- ペリリュー 楽園のゲルニカ : 作品情報・声優・キャスト・あらすじ …, https://eiga.com/movie/103242/
- ペリリュー -楽園のゲルニカ- | シンエイ動画, 12月 30, 2025にアクセス、 https://shin-ei-animation.jp/works/peleliu/
- ペリリュー 楽園のゲルニカ | マンガPark, https://manga-park.com/manga/88
- ペリリュー 楽園のゲルニカ の無料試し読みならドコモの漫画・電子書籍ストアdブック, https://dbook.docomo.ne.jp/list/1I21/9d1939cfb23e71aaf9b26a417a5f7e860759a2311d673c730303bd14a7e40dd7/
- 映画公開記念!!全話無料!!『ペリリュー 楽園のゲルニカ 』が48時間限定で一気読みできる全話無料キャンペーン実施!! | 株式会社白泉社のプレスリリース – PR TIMES, https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000002147.000046848.html
- #ペリリュー ―外伝― 1 ペリリュー 楽園のゲルニカ 評論(ネタバレ注意) – #AQM, https://aqm.hatenablog.jp/entry/2022/08/15/120000
- ペリリュー 楽園のゲルニカ の全話(1ページ目) – ヤングアニマルWeb, https://younganimal.com/series/8246f8b8b2e6c/pagingList?s=2&page=0&limit=50
- #ペリリュー 楽園のゲルニカ 11巻 【完】 評論(ネタバレ注意) – #AQM, https://aqm.hatenablog.jp/entry/2021/07/30/235900
- #ペリリュー ―外伝― 3 ペリリュー 楽園のゲルニカ 評論(ネタバレ注意) – #AQM, https://aqm.hatenablog.jp/entry/2024/08/15/120000
- ペリリュー 楽園のゲルニカ 11巻|無料漫画(マンガ)ならコミックシーモア, https://www.cmoa.jp/title/117664/vol/11/
- ペリリュー島戦跡ツアー 日本語ガイドと歴史を辿る1日ツアー<昼食付/送迎付き>by Rock Island Tour Company | パラオの観光・オプショナルツアー専門 VELTRA(ベルトラ), https://www.veltra.com/jp/beach_resort/palau/a/10702
- 2025大洋州・パラオ諸島ペリリュー島で戦跡めぐり – フォートラベル, https://4travel.jp/travelogue/11984101
- 安河内哲也『『ペリリュー 楽園のゲルニカ』かわいい絵柄に隠された壮絶な戦いの記憶』, https://ameblo.jp/yasukochi-tetsuya/entry-12949670870.html
- 今週のおすすめ 2025年12月5日(金)新作映画『ペリリュー -楽園のゲルニカ-』/ 旧作映画『ジョーズ』, https://cinemore.jp/jp/recommend/4299/p1.html
ペリリュー ─楽園のゲルニカ─880円


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